こんにちは ツナカンです。
ふだんは心理師として
不登校をはじめとする子育てや
先生方の相談に応じています。
子どもが学校に行けなくなると
どうして学校にいけなくなったのか探したくなりますよね。
だれかにいじめられたのか…
育て方が悪かったのか…
発達障害じゃないか…
それでもどうしても原因がわからないこと、たくさんあります。
そして病院に行き
発達障害・起立性調節障害・適応障害…
なんらかの名前がつくと安心できることもあります。
でも残念ながら
お医者さんのおスミつきをもらえないことがあります。
そんなときに、今話題になっているのがHSP。
医者にかからずに、ネットや本などで調べて
自分でみたてることができます。
でも、わたしは以前からHSP(C)には注意すべきと言ってきました。
HSPは病気なのか…
発達障害ではいけないのか…
自分や家族をHSP(C)だという人に本当に必要なのはなんなのか…
そんなことを考えてきたからです。
そんな中
HSPは発達障害の1つの側面である
という研究がでてきました。
今回は
発達障害とHSPはちがうのか
についてご紹介します。
この記事をよんでもらえれば
HSPと発達障害の関係について
知ることができるでしょう。
【信じたくない】HSPは発達障害である可能性3つ
名前がつくことで
つかみどころができるような気がして
いっとき安心することができます。
でも、次にやってくるのは
それでどうしたらいいの?
という疑問と迷いです。
また、もしつけた名前がまちがいだったら
本当に必要だったことができなくなることもあります。
たとえば
ごくありふれた病気である盲腸を
ガンだと診断されて、とらずにすむところまで
切りとられてしまったら
その後の人生はどんな風になっていくのでしょう…
さて、そんなことを思っているときに
こんなツイートが流れてきました。
昨年のLD学会でも発表した研究『HSPと発達障害は区別可能なのか』が論文になりました。熊大リポジトリより、どなたでもご覧になれます。
web調査による900名を対象にしたデータより分析しています。以下、結果の概要→https://t.co/6AwUUjNN7F
— 菊池哲平 (@tep_kikuchi) January 10, 2023
この論文によると
- HSPは診断にはならない
- HSPは発達障害の一部を切りとったにすぎない
としています。
そもそもHSPには医学的診断基準はなく、その概念は曖昧な部分が多いことが示唆されます。
自己理解としてHSP概念を利用することはある意味で有用と思いますが、“発達障害とは違う”と判断するエビデンスは見出せなかったと言えるでしょう。詳細は論文をご参照ください。
— 菊池哲平 (@tep_kikuchi) January 10, 2023
ではこの論文の少し中身を見ていきましょう。
調査対象
- 調べた人数 900名
- 調べた年齢 15~59才で各年代100名ずつ
- 男女の比 5:5
統計がただしくできているかどうかを見る上で
900というのはかなり多い数ですので
※ 誤差5%で400名
しっかりとした調査であることがわかります。
また、15才から対象になっており
いわゆるHSCもふくまれています。
アンケートの内容
- HSPを調べるアンケートの日本語バージョンと発達障害のアンケートをミックス
- HSPとのちがいが指摘されているところも抽出した
結果
-
HSPの数値だけが高く、発達障害の数値が低い人はいなかった
-
HSPと発達障害は関連性が強い
-
発達障害の傾向は弱くても、HSPの傾向だけが高い人はいなかった
HSP(C)が発達障害とはちがうのであれば
発達障害とはちがうポイントが
高く出る必要がありますが
そうならなかったとのことです。
分析の結果、HSP尺度(HSPS-J19)で著しく高い得点(2SD以上)を示す人は全員が簡易的な発達障害尺度(ASDはAQ、ADHDはCAARSより項目を抜粋)でも著しく高い得点を示し、HSPのみの特徴を示す人はいませんでした。逆に発達障害尺度のみが高い人は一定数存在しました。→
— 菊池哲平 (@tep_kikuchi) January 10, 2023
HSPの提唱者であるAron(1997)は
HSPと発達障害はちがいます。
と言っていますし
ちまたでも
“繊細さん”は発達障害とちがいます
と言っている医者やカウンセラーもいます。
しかし、この調査では
HSPと発達障害を明確に区別することは難しい
というのが結論です。
HSPは繊細で感じやすいんですよ!
発達障害とはちがいますよ!
という意見について
この論文では
敏感で繊細なのは,不安とむすびつきやすく
ADHDのせいで自己肯定感が下がったことによって
ビンカンになっている可能性もあるとしています。
つまり、ADHDで怒られたりすることが多かったために
ビクビクしながら生きているかもしれないのです。
でもHSPは芸術の才能が高いんですよ!
とも言われます。
これについても自閉症の傾向から
他人とのコミュニケーションがむずかしいため
自分の世界にビンカンになったり
芸術に没頭しているために
コミュニケーションがおろそかになっている可能性があるとしています。
つまるところ
発達障害がもともとあって
その生きにくさからHSPと呼ばれるような状態になっている…
その可能性があるわけです。
本やネットのHSPアンケートは危険!
この記事をよんで下さっている方は
きっとご自身のことやお子さんのことで困っているはずです。
そんな風に困っているときには
正しい情報を見分けるのがむずかしくなります。
この論文の著者はあらためて
HSPかどうかを判断するのは非常に危険であり
それにより何らかの不利益に生じかねない
(例えば発達障害の疑いが潜伏化してしまい必要な支援・配慮がうけられなくなるなど)
と注意をうながしています。
この論文の課題
とても重要なことを伝える論文ではありますが
この論文だけで結論を出すのは早すぎる
という指摘もあります。
・Panagiotidi et al. (2020)では、HSP尺度とADHD特性の相関は中程度。菊池(2022)はかなり相関が高い(ただしADHD特性の測定に使用された尺度は違う)
※相関係数の解釈はGignac & Szodorai (2016); Cohen (1988)の提案による
(つづく) pic.twitter.com/zOZAv7BUIa— 飯村周平 / Shuhei Iimura (@Tokyo6Heart) January 11, 2023
なぜこのような違いがみられたのでしょうか?一方を擁護するわけではないのですが、私は現段階で上記の知見から強い結論を導くのは困難だと思っています。いつになるかわかりませんが、質問紙法のような相関研究でアプローチするのであれば、知見の蓄積とそのメタ分析の結果を待ちたいところです。
— 飯村周平 / Shuhei Iimura (@Tokyo6Heart) January 11, 2023
つまり同じような論文を集め
それをまとめて、より正確なデータにすることが
必要だということです。
ちなみにこのツイートの主は
飯村周平先生というHSPについて
科学的に研究されている方です。
まとめ
今回はHSPと発達障害の関係について
重要なことを伝える論文をご紹介しました。
結論は
HSPは発達障害の一側面である可能性が高いが
今回の論文だけをもって
「HSPは発達障害だ」と言いきってしまうのは
まだ尚早ということかもしれません。
生きにくさに名前がつくと
安心できる気もちになることはわかります。
しかしHSP・HSCについては慎重になる必要があります。
この記事がHSP・HSCのリテラシーになることを願います。
リテラシーを持てるようになるには
きちんとした情報を知ることが必要です。
最後にあらためて以下の本をご紹介しておきます。
今、お子さんの不登校や登校しぶりについて
なにか原因を探していて
そのために正しい知識を手に入れるためのお役にたつでしょう。
これからもHSPと発達障害の関係について
調査した論文の発表が待たれますね。
引用文献
Elaine N. Aron and Arthur Aron(1997)Sensory-Processing Sensitivity and Its Relation to Introversion and Emotionality, Journal of Personality and Social Psychology, Vol. 73, No. 2, 345-368
菊池哲平(2022)HSPと発達障害は区別可能なのか?,熊本大学教育学部紀要,71,77 – 82
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